■菊の被綿(きせわた)
〜菊の香りで若返り〜
重陽の節句は中国から伝わったものですが、その中で日本独自の風習も生まれました。それが「菊の被綿」です。文字どおり、菊の花に綿を着せて(被せて)、香りを楽しみました。
菊は奈良〜平安初期に日本にもたらされた植物です。中国では、菊は観賞用というより、薬効のある植物とされていました。菊の群生する谷を下ってきた水を飲んで長寿を得たという「菊水伝説」や、菊の露を飲み七百年もの長寿を保ったという「菊慈童(きくじどう)」の故事など、菊は不老長寿の仙薬とされていたようです。そのイメージが日本にも受け入れられ、王朝文化の影響をうけて生まれた風習でしょう。
前夜から菊の花に綿をかぶせておくと、明け9日の朝には、綿は露を含んでしっとりしています。その綿で体を拭き浄め、長寿と若返りを願ったものです。「綿」といっても、木綿ではなく、蚕の繭から採った「真綿」でした。それを赤や青や黄に染め、菊に帽子のように被せたのです。確かに、清々しい菊の香りを移した、目にも彩な被綿で体を拭えば、若返るような気がします。
今では一般に行われていない風習ですが、京都・上賀茂神社の「重陽 神事・烏相撲(からすずもう)」では、9月9日の朝10時に、前夜から菊の花にかぶせておいた「菊の被綿(きせわた)」を神前に供える神事が行われます。
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